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来福酒造株式会社

品質一本で真向勝負 ~伝統を守るよりチャレンジ精神~

藤村俊文社長

 来福酒造株式会社
   http://www.raifuku.co.jp/

 代表取締役社長 藤村 俊文
 

 事業内容   /酒類製造業
         (清酒90%、焼酎10%)
 
事業所在地 /茨城県筑西市村田1626

                     2-17-1   
 創    業   /1716年(享保元年)
         (法人設立:昭和46年6月)       

 

 高品質とバリエーション豊かな日本酒で顧客ニーズに対応

 

 日本酒は米を発酵させて造るお酒ですが、意外とその工程についてご存知の方は少ないのではないでしょうか。発酵させるためには酵母が糖分を食べる状況を作り出すことが必要ですが、米には糖分がありません。このため米を麹菌の酵素によって糖分に変え(製麹)、そこに酵母を加えて発酵させるという巧妙な仕組みにより日本酒は造り出されているのです。
 複雑で手間がかかる酒造りですが、消費者の嗜好の変化(特に若年層)や酒類の多様化により清酒の需要は年々減少の中にあり、厳しい経営を強いられている蔵元も少なくありません。
 こうした厳しい業界環境にありながら、品質重視をモットーに様々なバリエーション豊かな日本酒を手頃な価格で提供し、県内外の多数の消費者から支持を受けている元気な蔵元が、今回ご紹介する「来福酒造株式会社」です。

 

 

 永年の歴史を誇る蔵元にも厳しい環境が…。

 同社は、1716年(享保元年)に近江商人が筑波山麓の良水の地を当地に求めたのが始まりと、非常に永い歴史を誇っています。そして、創業時から同社のブランド銘柄となっているお酒「来福」は、「福や来む 笑う上戸の門の松」という俳句に由来し名付けられたもので、地元の消費者を中心に永年親しまれてきました。
 この伝統ある蔵元を継ぐために、東京農業大学醸造学科で本格的に学び、その後協和発酵に入社、九州の工場で3年間近く実習を重ねていた藤村俊文社長でしたが、平成8年11月から同社の経営に携わることになります。
「当時私としてはまだ修行の途中だったのですが、業界を取り巻く状況が厳しくなり、我が社も例外ではありませんでした。昭和46年に法人設立してから、平成8年に初めての赤字の計上を余儀なくされるなど、厳しい経営状況になりつつありました。こうした中で次期経営者として蔵元に戻るよう声がかかったのです。」
 それは、藤村社長がまだ20歳代半ばの頃のことでした。

 

 伝統を守るのではなく、人がやっていない領域をやる

大きさの異な小さなタンクが並ぶ 藤村社長が経営に参画してから始めたことは、伝統の味、手法を守ることではなく、新しいことに挑戦し、多くの消費者に支持される日本酒を目指すことでした。具体的には、品質をより一層向上させ、バリエーション豊かな独創性ある酒造りに挑戦し、しかも一升瓶で2千円台の手頃な価格で消費者に提供することでした。


 これらを実現するために、まず、従来一般的だった酒造りの大きいタンクを捨て、小さなタンクを使い始めました。これにより、微妙な発酵の様子や匂い、味などを観察することができ、丁寧な酒づくりが可能になりました。また、従来と同じスペースの中で数多くの種類のお酒を造ることも可能となり、試作品への挑戦もリスクが少ない中で取り組むことが出来るようになったのです。さらに、造るブランドに合わせてその大きさも少しずつ変えています。これは、新種の酒や高級ブランドは極めて小さく、定番のブランドはそれよりもやや大きめという具合に、用途により区分けするためです。これらは、効率性を視野に入れながら、「製造工程に手を抜かない」という藤村社長の思想の表れと言えるでしょう。
 また、同社は杜氏がおらず、その代わりを社長と一部の社員が行っています。杜氏の老齢化という問題に直面した時、「それなら自分たちでやればいいじゃないか、できないことはない。」ということで社長自ら始まったそうです。これは結果として、藤村社長の思い描く挑戦的な酒づくりがしやすくなり、また、最初から最後まで自分たちだけで酒づくりを行うという責任感と充実感を強めることにもなりました。


発酵を始める酒母(麹と蒸米と酵母等で構成) さらに、同社の酒蔵を見て感じたことは、非常に機械化が進んでいることでした。精米から洗米そして麹・酒母づくり・搾りと全ての工程に機械設備がからみ、効率化されています。「積極的な機械設備導入により効率化が図れたことはもちろんですが、これにより空いた人の手を、手造りが大事な工程箇所に集中させることができるのです。つまり一層丁寧な酒造りができているんです。」と語る藤村社長。

 

 良質な数多くのブランド品を手頃な価格で顧客に提供できる背景には、このように様々な工夫とそれを積極的に実践する姿勢があったのです。

 

 花酵母を使い品質の向上と差別化を図る

 

 同社の酒造りにおいて重要なポイントを握っているのが「花酵母」です。通常は清酒もろみを人為的に造成した酵母を使う蔵元がほとんどですが、同社の場合は5年ほど前から天然の花酵母を使用しています。これは、藤村社長の母校東京農業大学が研究、製品化した酵母を譲り受け、それを同社で分離培養したものです。
 ナデシコ、ツルバラ、月下美人等の花酵母を使うことにより、香りと味のバランスに優れた日本酒を作ることができ、これが同社ブランドの品質向上と差別化につながっています。
 我々も何種類か同社のお酒をいただいてみましたが、日本酒特有の酒臭さが全くなく、逆に今まで感じたことのない芳香さとフルーティーな味わいが相俟って、なんともいえない豊潤さを醸し出していました。
こだわりのブランド「真向勝負」 「酒の質を良くするために、新しいことに積極的にチャレンジしていくことが当社の経営理念でありますが、花酵母の使用はその大きな一つでした。この酵母使用により、女性や若い年齢層の方々も来福のファンに取り込めるようになりました。」と藤村社長。現在、花酵母を使った商品は全体の9割を占め、その豊富な花の種類は「来福」ブランドの多様化を実現しています。
 さらに、この花酵母を使用しながら、品質で勝負にこだわる藤村社長の思い入れを具現化したブランドが「真向勝負」です。このブランドは搾りや火入れをより丁寧に行った純米酒の熟成4タイプで、豊潤な中にもすっきりした味わいが特徴的です。やや他のブランドより値がはりますが、藤村社長の意気込みが、味はもちろん視覚的にも伝わる力作です。

 

 

 酒造りをとおして人とのふれあい、信頼を深める

 

 

 「酒造りはビジネスだけでは割り切れないものがある。人間関係を深めるツールとなるお酒を造っている我々こそ、人とのふれあいを大事にしなければならないと思うんです。」と語る藤村社長。
 同社は、10年近く前から卸問屋への納品は一切なく、小売店のみに納めているそうです。藤村社長が自ら小売店を歩いて、来福を飲んでもらった中で、良さを理解して顧客にアピールできる店主がいる店と契約しているのです。こうして、小売店とお酒を通じたふれあい、信頼関係を築き、その店舗数は現在、藤村社長の地道な努力により県内外で70店舗余りを数えるまで至っています。

 

 

このように独自の販売チャネル、いわゆる限定流通が一つの戦略となっている同社ですが、インターネットやマスメディアも積極的に活用し、新たな顧客獲得にも努めています。
 また、3年間かけて茨城の米"常豊"を復活させ、県花であるバラの酵母を使い醸造した日本酒ブランドを造ったり、豊富な商品ラインナップを活かして"12本飲み比べセット"を発売するなど、藤村社長の挑戦は続きます。

 

〝その途切れることのないチャレンジ精神は、どこから生まれてくるのですか?〟との問いに「それはお酒が好きだからですよ!そして美味しいお酒を飲んだ人々の笑顔が見たいから。」と語る藤村社長。これからも、我々消費者に魅力あるお酒を提供していただくことを期待したいと思います。

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