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株式会社オメガトロン

独自開発した高性能の電子銃・イオン銃で、最先端のナノテクノロジー研究をサポート

 株式会社オメガトロンは、研究機関や大学などの研究者向けに電子銃・イオン銃・各種分析装置をオーダーメイドで開発・設計・製造しています。これらの製品の中には特許を取得したものもあります。
 電子銃やイオン銃は、極微細な加工や最先端のナノテクノロジー(注)研究には欠かすことができない機械です。
 平成23年9月13日に本社を訪問し、芳賀沼哲夫代表取締役社長にお話を伺いました。



(注)ナノとは、「10億分の1」を表す単位の接頭辞です。ナノテクノロジーとは、ナノメートル単位で原子や分子などを自由に操作・制御し、優れた機能や特性を持つ物質を作り出す技術の総称を言います。





電子とイオンについて



 まず初めに、電子についてご説明します。右の図をご覧ください。
 原子は、その中心にある原子核と、原子核の周りを回る電子から構成されます。
 原子核はプラスの電気を、電子はマイナスの電気を持ち、電子はプラスの電気を持つ物に引き寄せられる性質があります。


 次に、イオンについてご説明します。下の図をご覧ください。
 原子や分子は電気的に中性ですが、1個又は複数の電子を失ったり受け取ったりします。このような電気を帯びた原子又は原子団(化合物の分子内に含まれるある特定の原子の一団)をイオンと言います。
 電子を失ってプラスの電気を帯びた原子又は原子団を陽イオン、過剰に電子を受け取ってマイナスの電気を帯びた原子又は原子団を陰イオンと言います。



 電子やイオンの性質を利用して開発された装置が、電子銃やイオン銃です。
 電子銃は電子ビームを発射する装置で、身近なところでは、一昔前のテレビのブラウン管に電子銃が組み込まれています。その他、金属の溶接加工、分子レベルの材料改質、電子顕微鏡、医療器具や薬品の包装、放射線治療、印刷など幅広く利用されています。
 イオン銃は、真空中のイオン発生器内で原子やガスから電子を奪い、発生させたイオンを特定の方向に加速してビーム状に放出する装置で、半導体素子の製造、植物の品種改良、がん治療などの広い分野で応用されています。



電子ビームとの出会いと再会



 芳賀沼社長が電子銃に興味を持ったきっかけは、大学の授業で行った実験だったそうです。

 「大学では電気工学を学びました。電子の実験の授業で謎の多い電子ビームの魅力

 に惹かれ、それ以来『いつか電子に関わる製品を開発したい』という思いを持つよ

 うになりました。
  大学を卒業して、自動車部品製造会社に就職しました。電気だけでなく
メカも得

 意だったので、製造ラインを自動化する装置の設計などを担当しました。」

 入社して十数年経ったころ、芳賀沼社長は『学生のときに夢中になった電子銃を開発したい!』と思いが募り、退社するかどうか悩みました。その時、職場の近くに電子銃を取り扱っている会社があることを偶然知って、すぐに転職を決断しました。

 その会社は、外国製の電子銃を輸入し、装置を組み立てて販売していました。単なる組み立てだけでは満足できない芳賀沼社長は、『電子銃を自分の手で作ってみたい!』という思いが日増しに強くなり、働きながら電子銃の専門書で独学されたとのことです。

夢を諦めず創業して



 転職先で2年間修業を積んだ後、平成5年7月、芳賀沼社長は一念発起して当社を設立しました。
 芳賀沼社長は、創業時の苦労話などについて、次のようにおっしゃっています。

 「妻と2人で創業しました。オメガ(Ω)はギリシャ文字の最後に来る文字で『究

 極』という意味があります。『究極のビームテクノロジーを追求し、常に新しい技

 術にチャレンジし続ける企業でありたい』との思いから、社名を『株式会社オメガ

 トロン』としました。
  会社は旧・那珂町(現・那珂市)にある4階建てマンシ
ョンの4階の1室で、マン

 ションはエレベーターが無かったので、重たいものを運ぶのが大変でした。その当

 時、転職先で培った人脈を活かして原研(旧・日本原子力研究所、現在の独立行政

 法人日本原子力研究開発機構)からの受注が思った以上にあって、ひとつひとつニ

 ーズを聞いて特注品を作りました。初年度の売上は3千万円を達成し、今思えば良

 いお客様に巡り逢えて運が良かったと思います。」

 2年目以降も売上は増加し、マンションが手狭になったため、平成11年7月、現在のひたちなか市に本社を移転しました。
 その後、外部で働いていた芳賀沼社長の長男と次男が当社に入社し、当社の業績が悪化したときも、家族4人が一致団結して苦難を乗り越えてきました。



当社の強み



 当社の強みの一つは、実験装置の仕様に関する個々の注文に対して、これまでに蓄積したノウハウを用いて独自に設計し、自社で組み立て、自社で実験データを収集する一貫体制です。外注に頼るのは、熟練の技術を要する精密部品の加工だけです。

 「当社では特注品を作っています。お客様のニ

 ーズはさまざまですが、信頼性の高い製品を短

 納期でお客様にお届けしています。」

と、芳賀沼社長はおっしゃっています。

 2つ目の強みは、営業担当者の軽快なフットワークです。芳賀沼社長の長男を営業専門とし、ホームページや電話で問い合わせのあった先をすぐに訪問して、製品について十分説明する体制を整えています。

 更なる強みが、「人のものまねではなく、他には無いものを何も無い状態から考えて独自の技術を編み出し創り出した新しい商品を開発し、製品化する」という芳賀沼社長のものづくりに対するこだわりです。当社がオリジナル商品の開発にこだわる理由はそこにあるのです。



当社の功績と今後の目標



 平成20年7月、イオンビームを材料に当てて磁気構造を分析する装置の開発について、独立行政法人科学技術振興機構(略称JST、文部科学省所管)から「独創モデル化」の委託を受けました。
 「独創モデル化」では、JSTから資金提供を受けて、研究開発型企業と研究者が協力して、試作品の製作や実用化に向けた実証試験等を行います。



 さらに、平成21年4月、中小企業庁の「2009年元気なモノ作り中小企業300社」の中の『キラリと光るモノ作り小規模企業』150社の1社に選定されました。
 これは、日本の経済活力の源泉である中小企業の中で、規模は小さくても、モノ作りを通じ地域経済に貢献している企業や社会的課題に対応して新分野を開拓している企業などが選定されています。



 これまでの当社の製品は、大学や研究機関などの研究者向け実験装置が主でしたが、現在、電子銃やイオン銃の設計や開発で培われた技術を応用し、産業界向け汎用製品の受注獲得に力を入れています。

 「会社を設立してからの十数年は電子銃やイオン銃のノウハウを掴む修業期間で、

 これからは、当社の製品を産業界で広く使ってもらえるようにしたい。」

と、芳賀沼社長は考えています。



おわりに



 「保証協会には創業当時からお世話になっています。今年になって、金融機関の提

 案により保証付借入金を組み直しして返済額を大幅に減らした結果、資金繰りが楽

 になり本当に助かりました。保証協会にはいつも感謝しています。これからもよろ

 しくお願いします。」

と、芳賀沼社長はおっしゃってくれました。
 また、電子銃やイオン銃の仕組みなどについてとても分かりやすく解説していただきました。

 製品開発に熱い思いをかけ、少数精鋭の従業員1人1人が自信と誇りを持って活躍している株式会社オメガトロンのますますのご発展をご祈念申し上げます。





 

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