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株式会社日立金型技研
独自の技術力で“評価される経営”を実現
株式会社 日立金型技研 3115-12平原工業団地 事業内容 / プレス金型設計・製作各種プレス加工 創 業 / 昭和62年6月 (法人設立 平成19年6月) |
金型製造業はかつては日本のお家芸ともいうべき製造業であり"ものづくり"を代表する業種でありました。ところが、バブル崩壊後、コスト削減を迫られた大手企業が競って生産拠点を海外に移転させたことから、国内の事業所数は大幅に減少しました。(経済産業省の工業統計表によれば、金型製造業の事業所数は、平成3年に12,815ヵ所あった事業所は、平成17年には9,984ヵ所にまで減少している。)
しかし、不況下でもひたむきに技術力を磨き、取引先の高度な要求に応え、他社が模倣できない製品を作り続けている企業があります。
今回は、そのような企業のひとつ、東海村の平原工業団地に本社をおきプレス金型設計・製作を営んでいる、株式会社日立金型技研をご紹介します。
金型設計の知識と製造技術を習得し20代で創業
株式会社日立金型技研は、ワイヤーカット放電加工機やマシニングセンタ、クランクプレス機等大小約30台の機械設備を保有し、主に大手自動車部品メーカー向けの金型や、プレス製品を設計・製造しています。小田島社長が個人事業主として創業されてからはすでに30年以上の歳月が流れています。現在の事業基盤を築くまでには様々なご苦労があったのではないかと思いますが、創業当時のお話を伺ってみました。
「私は東北地方の出身なんですが、まだ10代の時にまさに裸一貫で茨城県に出てきて、様々な事業所で職人として働きながら現場の技術を習得し、さらに、通信教育などを利用して金型の設計の知識を勉強しました。当時、金型の設計ができる人材は希少であり、独立しても受注が取れると考え27歳の時に金型の設計事務所を開設しました。何の後ろ盾も無い分、仕事と勉強を両立させるために人よりは努力したつもりです。」
当時、金型製造会社で設計の技術者を抱えている事業所は少なく、県内外約7~8社の金型製造会社を得意先としていたそうです。
約15年間、金型設計会社として事業を行っていた小田島社長ですが、昭和62年に取引先であった事業所の工場を居ぬきで買い取り金型の製造を開始します。さらにその翌年にはプレス機を導入し、自社で製造した金型を利用し機械部品などの製品の成型加工も可能にしました。
「自社で設計から製造、そしてプレス加工までを受注し、取引先により付加価値の高い製品を提供できる点は当社の強みだと思います。また、受注はいつでも安定しているわけではありません。金型の受注が少ないときにはプレス製品の受注を行うなど、リスクを分散させることにもなります。」
高い技術力と充実した設備により取引先との信頼関係を構築
当社は永年にわたる取引のなかで業界内での信用を確立しており、昨年9月は自動車のワイパーを生産している大手メーカーからあらたに受注を獲得するなど業績は順調に推移しています。その背景には"ものづくり"に対するこだわりと、競合他社に勝る"なにか"が隠されているのだと思います。
小田島社長に、経営者として特に重視している点について伺いました。
「金型の最大の特徴は、単品受注生産、例えるなら“一品料理”であるという点だと思います。それは、量産品とは違い、1件の受注に対する評価が、その後の取引に大きく影響することを意味します。そのため、価格・品質・納期などあらゆる面で高度化する取引先の要望に応えるべく高い技術力を維持するよう努力しています。なかでも機械設備は他社に先行して前向きに導入するようにしています。」
小田島社長のお話し通り、前述のワイパー用金型の新規受注に合わせ、ソディック社製のハイブリッドワイヤ加工機を導入しました。この機械は国内で当社が始めて導入したものであり、従来のワイヤ加工機と、水圧により金属を裁断する最新技術のウォータージェット加工機を合体させた複合機です。これにより加工スピードは1/10以下まで短縮できるそうです。
また、この業界の特性として、外部発注する金型はメーカーにとって、「商品開発の最新情報の公開」を意味するため、外注先の選別は慎重に行われるといいます。当社が永年にわたり取引先との緊密な関係を維持していることは、企業秘密の厳守という観点からも信頼できるパートナーとして認められていることを意味しています。
淘汰の時代を生き抜く企業とは
冒頭にも記載したとおり、ここ10年あまりの間に生産拠点のオフショア化が進み、金型製造業者やプレス加工業者は厳しい外部環境にさらされました。しかし、当社はそうした中でも安定した受注を確保しています。では、当社と業績が落ち込んでしまった企業との違いはどこにあるのでしょうか。
「確かにここ数年、受注を海外に奪われたことから廃業する事業所も多くみられ、国内では産業の空洞化が進みました。しかし、あくまで海外で生産可能な製品は付加価値の低い単純なものであり、受注が減少したのは比較的技術力の低い企業であったのではないかと思います。大手企業が製品の図面を海外に持って行き、製造に関する技術を移転させようと考えても、日本の職人が永年かけて蓄積した、付加価値の高い技術は簡単に真似できるものではないのです。製品の寸法や材料などの情報は図面に記載できますが、熟練した職人の経験と勘による金属表面の微妙な仕上方法までは書いてありませんからね。」
小田島社長は、高度な技術が要求される受注は、依然として国内の中小企業が支えているといいます。
“評価される経営”を目指して
最後に小田島社長に経営理念について伺ってみました。
「ひと言でいえば"評価される経営"を実現することです。取引先から当社の技術力を評価していただき、営業をしなくともその後の受注がもらえるというのが理想ですね。そのためにはいつでも妥協をせず正直な経営を続けることが大切です。もっとも、われわれのつくっている金型は、取引先が使えば良し悪しがすぐに分かりますから、ごまかしなど通用しない世界ですが。」
当社は今年6月に法人を設立し、新たなスタートを切りました。そして、工場内では数年前より小田島社長のご子息である専務が中心となり業務の運営に当たっています。
常に高い技術に挑戦しひたむきな努力を惜しまない当社は、これからも取引先からの高度な要求に応え続けてくれることでしょう。
日本の"ものづくり"を支える当社を、当協会としても引き続き応援させていただきたいと思います。