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株式会社シロク
インターフェースの未来を切り拓く、つくば発のベンチャー企業
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いわゆる「ベンチャー企業」に代表される、新しい技術やビジネスモデルを構築し、リスクをとって新規事業に挑戦する企業の創出とその成長は、我が国の産業のイノベーションを促進し、経済全体の成長と活性化を図るために必要不可欠であると言えます。
この10年程度の間で、最低資本金規制の撤廃、ベンチャーキャピタルの成長、新興株式市場の開設等、ベンチャー企業を取り巻く制度的・社会的枠組みが急速に整備されてきており、我が国のベンチャー企業の創出・成長環境は、この間、飛躍的に向上してきました。
しかしながら、2008年版中小企業白書によれば、日本全体の開業率は、5.1%(2004年~2006年)と、廃業率の6.2%を下回っており、米国(10.2%)、英国(10.0%)、フランス(12.1%)(米国、英国、フランスはいずれも2004年データ)と比べて低水準にとどまっており、わが国で事業を興し、そして軌道に乗せることの困難さに変わりは無いようです。
今回は、タッチパネルをはじめとする"ユーザーインターフェース(下記※参照)"と呼ばれる分野に着目し、急成長を遂げているつくば発のベンチャー企業・株式会社シロクをご紹介します。同社は平成13年に設立され、事業所は「つくば研究支援センター」内においています。その製品の新規性、有用性から様々な分野において注目を集めており、2度にわたりテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」"トレンドたまご"のコーナーにおいて取り上げられています。
研究開発型のベンチャー企業が事業を展開していく上でどのような工夫をされているのか、同社の小川社長にお話を伺いました。
※ユーザーインターフェースとは…
コンピューターとそれを使う人間の間にあって、人間の指示をコンピューターに伝えたり、コンピューターからの出力結果を人間に伝えるためのソフトウエアやハードウエアの総称。コンピューターの使いやすさを決定する大きな要因となる。
新方式のタッチパネルを開発 ~操作性向上から創造性触発へ~
現在、タッチパネルは、駅の自動券売機やカーナビの液晶画面など様々な製品に使用され、生活にも馴染み深いものとなっています。われわれユーザーは特に意識しませんが、ひとくくりでタッチパネルと言っても、指を感知する方式の違いにより数種類に分けることができます。
同社が開発した「カメラ方式タッチパネル」は、従来方式のものとは異なり、ディスプレー画面の上部両端に設置された2台の小型カメラにより画面にタッチする指の像を撮影し、画像処理によりタッチしている位置やその状態を検出するという製品で、応答性に優れており、高精度の操作も実現しました。
「弊社のカメラ方式タッチパネルは、タッチする指の太さや本数といったタッチ状態を検知することができ、回転、拡大、移動といった3D表示オブジェクトの操作も実現しました。また、既存のタッチパネルには、ディスプレーが大型化するとそれだけコストがかかるといった問題点がありましたが、弊社の製品は2台のカメラの位置を離すだけで大型化に対応できるため、コストメリットが大きいという強みもあります。」
この技術を応用した製品は、大手ゲーム機器メーカーをはじめとし、NHKの天気予報にも使用されています。みなさんも気象予報士が棒を片手に画面にタッチしながら説明する様子をご覧になったことがあるのではないでしょうか。
また、従来、カメラ方式のタッチパネルをOEM供給(相手先ブランドによる生産)してきた同社ですが、ブランド力を強化するため、 「シロク・タッチ」という商品も開発し販売に乗り出しています。この商品は、普通のパソコンにかぶせるだけでそのままタッチパネルとして使用できるというすぐれものです。
さらにこの技術は、電子黒板としての応用も可能であり、今後は学校などへの市場拡大が期待できるそうです。
創業地をつくば市に選んだ理由とは・・・?
上述のとおり、同社は「つくば研究支援センター」内に事業所をおいています。茨城県つくば市を創業の地に選んだことには特別な理由があるようです。
「茨城県、なかでもつくば市はベンチャー育成に関する行政の支援が充実していると聞いていましたから。このセンター内に事業所を構えているのも、様々な情報が入手しやすいことや、行政の支援が受けやすいことなどが大きな理由です。実際、平成15年には茨城県より中小企業創造活動促進法による認定を受けたことから、補助金による助成を受けたり保証協会よりベンチャー企業促進融資による支援を受けることができました。創業当時の資金的に余裕があまりない時期でしたから大変助かりました。」
ところで、皆さんは"ファブレス企業"という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、自らは製品の設計やマーケティング、販売などに特化し、生産を外部の工場に委託する企業のことを指します。同社はまさにこのファブレス企業であり、自社では生産設備を保有していません。そのため、大がかりな設備投資を必要とせず、過剰な借入を負担するといったリスクがありません。また、少ない人員で小回りの利く経営が可能となります。つまり、経営資源を研究開発部門にのみ集中させればよいため、少ない経営資源でも成功することができるといったメリットがあります。
しかし、一方で委託先からの情報漏洩というリスクもあるため、この点に関しては知的財産の情報管理に関する契約を締結し、細心の注意を払って対応しているとのことです。
(なお、同社が保有している特許の件数は20~30件とのこと!)
「LLセンサー」(電磁誘導方式圧力分布センサー)を開発
同社がタッチパネルの次に開発したのが、 「LLセンサー」と名付けられた電磁誘導方式の圧力分布センサーです。これは、コイルが張り巡らされたシート(セル部)と金属シートの間に緩衝材を挟むといった構造で、踏まれるなどして圧力がかかり金属シートがセル部に近づくことで電磁結合が変化し、その結合係数を検出することにより様々な圧力を検出表示することができる製品です。
この製品はすでにゲーム機の入力デバイスとしての納入実績があり、この他、防犯システムやベッドに敷くことで寝ている人の状態を把握するといった、医療・福祉の現場での利用など様々な分野での応用が期待されています。
開発~販売までの円滑なサイクルを構築することが重要
ベンチャー企業には、製品化するまでの研究開発費が嵩み、販売に至る前に資金不足に陥り倒産する企業が多いなか、同社は見事に事業を軌道に乗せることに成功しました。これには、開発~販売までの円滑なサイクルを構築する必要があります。
製品開発に関して小川社長は次のようなことを話してくださいました。
「新たに開発した製品が売上という果実となって回収に結び付くかどうかは、大手企業であっても"センミツ"の確率だと言われています。つまり3/1000の非常に小さな確率だということです。しかし、われわれのような経営資源の少ないベンチャー企業にとって1000のプロジェクト中、3つしか成功しないのでは事業として成り立ちません。ですから、私は"3割バッター"を目指しているんです。つまり、3つのプロジェクトを行い、1つのプロジェクトを成功させるようなつもりで取り組んでいます。」
「ある製品を開発し、生産・販売し、売上金として回収に至るまでにはかなりの期間が必要となります。ですから、ある製品を販売している裏側では、次の製品の開発を行い、1つの製品の販売量が低下する頃には次の製品により売上が確保できるような態勢をとるよう努力しています。弊社のような開発型の企業にとっては、新製品の開発こそもっとも有効なリスク対策となるのです。」
なお、技術開発にあたっては、業界の動向を調査し、他社ではどのような開発を行っているか、その技術がすでに市場に出てはいないかをよく見極める視野の広さが大切であると言います。
「何年も開発に打ち込み、製品化したらすでに出回っている技術だった、なんてことはよくある話ですから」と小川社長。
おわりに・・・
"ダメもと"で聞いた、「今度は何をつくるんですか?」との問いには、「ナイショです(笑)」といたずらっぽい笑顔でかわされてしまいましたが、小川社長の目には、はっきりとインターフェースの未来が見えているのでしょう。わが県発のベンチャー企業としてさらに大きく成長しようとしている同社を、当協会も応援し続けたいと思います!