元気企業
バックナンバー
株式会社 つくば精工
躍進する建機メーカーを支える『確かな技術』
|
順調な建機業界 ―実はすごいんです、中小企業の存在感!―
サブプライム問題をきっかけとした世界的な景気後退懸念がくすぶっているほか、原油・素材の高騰など原材料高も企業の業績を圧迫しており、日本の産業界には暗雲が立ち込めています。しかし、このような世界情勢の中でも堅調な業界もいくつかあり、そのひとつに建設機械製造業があります。
建設機械製造業界は、BRICsと呼ばれるブラジル・ロシア・中国などの新興国市場の需要が牽引しており、今後も当面の業績好調が見込まれています。(8月21日、日本建設機械工業会は、2008年度の建設機械出荷額の見通しを07年度比9%増から2%増に下方修正しているが、依然として増加見通しにあることに変わりはないようです。)
建設機械といえば、われわれはキャタピラ―、コマツ、日立建機といった大手のセットメーカーを思い浮かべますが、実は、建設機械部品の企業規模別出荷額シェアの約7割(金額ベース)を中小企業が占めており、これは自動車の各部品出荷額に占めるシェアが約2割であることと比較すれば、同分野において中小企業の存在感がいかに大きいかがお分かりいただけると思います。
そして、それらの中小企業のなかには、建機機械を構成する基幹的な部品やモジュールの分野において、世界的に見ても高い技術力を保有している企業も少なくありません。今回は、大手セットメーカーのひとつである日立建機の協力工場として、油圧部品を中心とした建設機械の部品加工を営んでいる株式会社つくば精工をご紹介いたします。
映写機製造業から大手建機メーカーの協力工場へ
同社は、かすみがうら市大和田に本社工場を置き、日立建機㈱やコマツ(㈱小松製作所)など大手建設機械セットメーカーの協力工場としてハウジング、ギヤリング、キャリアをはじめとする油圧部品などの加工を行っています。
奥田雄二社長に同社の沿革について伺いました。
「弊社は、先代が昭和25年に東京都足立区で創業した、"富士映機㈱"という会社が母体となっています。社名を見てわかるように、当時は映写機の製造販売を行うメーカーとして事業を始めましたが、その後、㈱日立製作所の亀有工場から重機部品の製造を請け負うようになりました。当時はまだ日立建機㈱が㈱日立製作所から分離される前です。その後、昭和45年に日立建機㈱が土浦に工場を移転させた関係から利便性を考え、数年後に弊社も現在の場所に工場を移転しました。」
最新設備の導入により高品質と効率化を実現
現在、同社の取引のうち約95%は日立建機㈱からの受注となっており、先代から通算すれば取引年数は40年以上にもなります。日立建機㈱は建設機械メーカーとして世界シェア3位のグローバル企業であり、特に油圧ショベルの技術において高い評価を受けています。
建設機械では、エンジンが人間でいうところの「心臓」であるとすれば、油圧機器はエンジンの動力を各所に伝え、滑らかな動きを実現するという意味において、人間の「神経」にあたる非常に重要な部分といえます。奥田社長は「取引先の要望に応えて仕事をきちっとやるだけです、うちの技術力は高くありませんから」と謙遜されますが、この長年にわたる取引関係は、同社への信頼の現れに他なりません。
「弊社に競合優位性があるとすれば、それは設備・加工機械が充実している点ではないでしょうか。加工機械は先を見越して最新のものを導入するようにし、常に大手メーカーと同等以上の加工技術を維持しています。なかには大手でさえ導入していない機械もあります。そして、人員は2交代制により、昼夜通して設備を稼働させることができる体制を敷いています。ですから、発注する側からすれば、常に自社と同じ水準で安定した品質の製品が供給されるという安心感があるのでしょう。また、多少無理な発注でも短納期が実現できるという点も強みではないでしょうか。」
その言葉通り、工場内には最新のマシニングセンタやNC旋盤などの大型の機械がずらりと並んでおり、その様子に圧倒されてしまいました。しかし、工場の広さ、機械の多さの割には従業員の姿をあまり見かけません。
「一人の従業員が同時に数台の機械のオペレーションをこなします。この機械の入力をしたら次はあれ、といった具合にぐるぐる回ります。設備が人手を補ってくれるため、多くの人員は必要ないのです。さらに夜間は夜間の担当に交代しますから、昼のみ稼働させている工場と比べれば、同じ設備と人員数で倍の効率を上げることができます。」
このことは、最新の機械を導入し設備を充実させることで、精度の高い加工を実現すると同時に、人件費を抑制し効率化を図ることで、取引先から求められる高品質と低コストという課題をクリアしてきたということでしょう。
なお、導入する加工機械のメーカーを統一させることで、従業員が機種ごとに操作を覚える負担を減らすようにしており、メーカーが開催するセミナーをはじめ、様々な外部の研修に出席させることで技術力の向上に努めているとのことです。
次のステージへ向けて
近年の建設機械メーカーの業績好調に伴い、同社においても受注が増加しており、増産要請に応じるため積極的な設備投資を進めてきました。しかし、同社はバブル崩壊後の受注が極端に低迷した厳しい時代も味わっており、前向きな中にも堅実な姿勢を崩していません。
「ここ数年、増産要請に応え大型の設備増強を行ってきましたが、今年でいったん設備投資をストップさせ、社内の体制を見直そうと考えています。そして、次のステージへ向けて環境への取り組みを強化するため、ISO14000の取得を検討しています。また、いつ数年前のように受注が落ち込み資金調達が困難になるか分かりませんから、すぐに資金化できる資産を確保することも必要と考えています。」
おわりに・・・
ご存じのように、茨城県ひたちなか市にある常陸那珂港周辺には、日立建機㈱とコマツが大規模な工場を建設しました。その工場で製造された建設機械は常陸那珂港から海外へと輸出されていきます。
完成品には「HITACHI」や「KOMATSU」としか書いてありませんが、それらの製品は株式会社つくば精工のような、多くの中小企業の技術の集積に他なりません。
今後も当協会は、同社のような"メイドインジャパン"を支える中小企業を積極的に応援していきたいと思います。
【参考文献】
『建設機械製造業における中小企業の役割と課題』(中小企業金融公庫総合研究所)