今回は、眼鏡フレームや医療用器具向けに、チタン・ニオブ・タンタルなどいわゆる「レアメタル」の伸線・異型線・研磨加工を行っている古河市の㈲樋山研磨工業をご紹介します。同社の主力製品である眼鏡フレームは、イチローや宮里藍選手が愛用しているオークリー(アメリカのスポーツ用品メーカー)のサングラスのフレームにも使用されています。 今年(平成21年)3月に竣工したばかりのピカピカの新工場で樋山社長のお話を伺いました。
※「伸線加工」と言っても一般の方には何のことか分からないと思いますので、同社の技術の詳細は末尾を参照してください。
創業者の父が“職人の意地で”確立したオンリーワンの技術
同社の歴史は、昭和34年に現在の代表取締役である樋山康浩氏の父である樋山千秋氏が金属表面研磨加工業として創業したことに始まります。金属といっても、さまざまな種類がある中で、なぜチタンなどレアメタルの加工業務を中心に請け負うようになったのでしょう。
「ある時、父は取引先からチタンの研磨を依頼されたのですが、チタンは他の金属とは違い、ただ磨いても光沢が出ない性質を持っており、当時、技術的に困難だと思われていました。普通の人なら諦めてしまうものを、根っからの職人である父は、通常の仕事を終えたあとに作業に取り組み、研磨する際に使用する薬品などを工夫し、試行錯誤の末、磨き上げてしまった。職人としての意地でしょうね。」
その後、軽量で強度があり、しかも耐食性のあるチタンは、あらゆる製品に利用されるようになり、眼鏡のフレームとしても利用されるようになりました。工業製品でありながら装飾品でもある眼鏡は、見た目の美しさも要求されます。メッキ加工を施すにも金属の表面がピカピカに光っていないとメッキをしても光らないため、独自の研磨技術を持つ同社が注目されたわけです。当時、眼鏡生産の本場として知られる福井県鯖江市にある多くの眼鏡メーカーから受注を請けていたそうです。
日本有数の技術を持つ伸線・研磨加工業者に成長
昭和59年、前代表者の父が病に倒れたあと事業を引き継いだ樋山社長は、それまで手作業が多かった研磨加工に積極的に機械を導入ました。さらに、平成11年に法人を設立し、研磨加工以外に、伸線機を導入しレアメタルの伸線加工も開始しました。 現在はチタンの線材を購入し、伸線加工、レンズをはめる窪みを形成する異型加工、研磨加工までを自社で一貫して行っています。日本ではレアメタルの伸線・研磨加工技術を持つ企業は数社しかなく、同社は特に眼鏡フレーム用伸線加工の品質においては国内外から高い評価を受けています。 なお、同社の受注割合は7割強を眼鏡フレームが占めており、その他を医療用素材、液晶テレビのバックライト用の部品が占めるといった構成になっています。
さらに、同社の特筆すべき技術として挙げられるのが、極細線技術です。25ミクロン(0.025mm)と直径が髪の毛より細いチタン製ワイヤの伸線加工技術を確立しており、この技術は世界でも最小クラスの加工技術と評価されています。生産した現物を拝見させていただきましたが、どこにあるのか分からないくらい細く、とても金属を引き伸ばしたものとは思えませんでした。
社員を信じて責任ある仕事を任せる
樋山社長の父が創業されてから約50年が経過していますが、18人いる社員の平均年齢は30代前半と非常に若い企業です。高い技術とノウハウが必要とされる業務において、人材育成の点で心がけていることを伺いました。
「弊社の工場もかなりの数の機械を導入していますが、工程には人間の感覚に頼らざるを得ない作業がかなりあります。したがって、ひとりひとりがノウハウを吸収し、職人に育ってもらわなくてはならない。私は今でも現場にいることが多いのですが、かつてはなんでも自分でやってしまう傾向がありました。しかし、それでは人は育たないんだと反省し、今では工程管理をはじめ、発注から納品まで可能な限り社員に任せるようにしています。また、社員全員に売上と原価に関する数字を伝えています。自分の仕事でいくら売上が上がっているかが分かれば、自分たちが会社を動かしているという実感が持てるし、例えばボーナスの支給にしても会社の現状が分かっていますから、ある程度納得してもらえていると思います。」
また、社員のモチベーションを上げるためには、自分たちが作っている製品がどのように社会で役立ってているのかを認識させることも大切だと言います。工場内で作業をしているだけでは、ただ針金を作っているようにしか思えないかもしれませんが、それが有名なスポーツ選手が愛用するサングラスに使用されているのを知れば、社員の作業に対する意欲も違ってくるそうです。
「この会社の売上をつくっているのは、私ではなく彼らです。 "企業は人なり"といいますが、社員ひとりひとりが充実感を持って働ける、魅力ある会社にしたいと考えています。」
おわりに…
創業者の父が職人の意地で会得したオンリーワンの研磨技術をもとに築き上げた事業は、樋山社長らが開発した伸線加工のノウハウにより日本有数の卓越した技術を持つ企業へと大きく成長しています。「常に社会に必要とされる企業でありたい」樋山社長はこのように述べていましたが、いまやその存在は中小企業という範疇にありながら、業界において無くてはならない大きなものとなっています。また、同社は常に危機感を持ち、来たるべき次の時代に照準を合わせ、より高度な技術開発に挑戦することも怠っていません。
現在、同社は新工場建設を機に、株式会社への組織変更と、商号変更を検討しています。新しい商号は思案中とのことでしたが、新生「樋山研磨工業」の今後ますますの発展を期待したいと思います。
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