みなさんは、「リーディングカンパニー」という言葉をご存知でしょうか。「リーディングカンパニー」とは、その業界を主導し、牽引する役割を担っている企業のことを意味します。今回ご紹介するアドバンスマーケティング株式会社は、若者を中心に人気のウィンタースポーツであるスノーボード業界において、まさにリーディングカンパニーと呼ぶに相応しい企業です。
同社は、まだ日本でスノーボードが広く認知される以前にアメリカのスノーボードブランドと輸入販売代理店契約を結び、様々なプロモーション活動やプロライダーの支援育成を通して、国内における同業界の地位、イメージの確立に貢献してきました。
わが国のスノーボード業界を黎明期から牽引
つくば市に本社を置くアドバンスマーケティング㈱は、スノーボードやスケートボード、そのウェア等関連商品などの輸入卸売業を営んでおり、全国のプロショップ(専門店)を中心に、一部大手スポーツ用品店を含む約500店舗を取引先としています。また、同社は単に輸入卸売を行うだけでなく、海外の有名プロスノーボーダーと組んで自社ブランド「ALLIAN」を立ち上げるなど、製品のプロデュースにも積極的に取り組んでいます。
代表者である宮沢氏は、高校を卒業後、日本の事務機器・カメラメーカーのアメリカ法人駐在員として渡米、その後、現地会社などを含め3社に計15年ほど勤務されました。そして1987年、スケートボードやサーフボード関連商品の輸入卸売を目的に同社を設立。1988年には、当時アメリカで流行しつつあったスノーボードに目を付け、現地のメーカーとの販売代理店契約を結び、ボードやウェアなどの取扱いをスタートさせました。今でこそスノーボード人口は、スキー人口と並ぶほどに拡大しましたが、その頃は、ごく一部にしか知られていないスポーツであり、1年目のボードの販売数はわずか120本だったそうです。
その後、90年代半ばのスノーボードの爆発的なブームとともに事業を拡大させ、同社の業界内での知名度は確かなものとなりました。(最盛期の90年代後半には、25,000本!を販売したそうです)
同時代の流れを読みニッチな市場で勝負
宮沢社長がこの業界でビジネスを始めようとした背景には、1985年のプラザ合意以降の急激な円高があったそうです。それまで円安・ドル高傾向で推移してきた為替相場は、その頃を境に急激に円高・ドル安に転じ、この結果、輸出主導で成長を続けてきた日本経済は大きな打撃を受けました。これを見た宮沢社長は、「今後日本でものを作って海外に輸出するビジネスは困難になる、逆に円高を強みにできる輸入業ならば将来性があるのでは」と考えたそうです。
また、輸入する商品については、「経済力を持った日本人は、今後、余暇を過ごすための支出を増やしていくだろう」と考え、何らかのレジャー関連商品を取扱おうと考えたそうです。 はじめはアウトドア関連商品を検討しましたが、その分野にはすでに大手企業が参入していました。もっとニッチな市場でなければ勝ち目がない、そう考え思いついたのが、当時アメリカの若者の間で流行っていたスケートボードやスノーボードの輸入だったのです。
同複合的なプロモーション戦略がブランド価値を高める
今ではスノーボード用品は大小様々なスポーツ用品店で販売されており、価格も数年前よりも安く手に入れることができるようになりました。しかし、同社が扱っている「LIB_TECH」や「ALLIAN」といったブランドの商品は、どこにでも売っているような、いわば普及品とは一線を画しており、コアなファン層をターゲットとしたものばかりです。
同社がいかにして取扱商品のブランド価値を高めていったのかを見ていきましょう。
スノーボードやスケートボードなどは、流行に敏感な若者が顧客ターゲットの中心となっているため、ファッション性はもちろんのこと、ブランドに対するイメージが売上を大きく左右します。ブランドイメージの形成には、プロモーション活動が大きな役割を果たしており、とりわけプロライダーとの契約により実際に商品を使用してもらうことが大きな宣伝効果を生みます。また、同社は毎年外国人プロライダー20人ほどを招待して開催される「アドバンスカップ」と呼ばれるコンテストを通じ、知名度とイメージの向上を図ってきました。
さらに、これらの商品を市場の需要量に応じて大量に供給するのではなく、数量を限定し、流通経路を絞って供給しているのだそうです。
「社員にはよく、"無理をして売るな"と言っています。ブランドイメージを維持する上で大切なことは、マーケットの大きさ以上に売ろうとしないことであり、ちょっと足りないくらいがちょうどいいんです。商品の希少性がブランドの価値を高めることにもつながります。」
同社がスノーボード業界で確たる地位を維持している背景には、他社に先んじて新しい魅力ある市場を開拓したということ以外にも、以上のような販売戦略が有機的に結びつきユーザーの購買意欲を刺激し続けているということが言えそうです。
自主性を大切にする社風が新たな発想を生み出す
ちょっと難しいことを書きましたが、社員に対しては、宮沢社長はあまりあれこれと細かな指示はしていないそうです。
「経営者である以上、社員の生活を守る責任がありますが、仕事をする上で最も大切なことは、関わっているみんなが楽しく働けることだと思っています。」
「企画を採用するうえでの判断基準は、それが面白いかどうかです。そして社員から何か新しい提案があった時には、失敗してもいいからやってみな、と言うようにしているんです。」
こうした考えは、経営者と社員との間に信頼関係があってのものだと言えるのでしょう。宮沢社長のこのような"社員の自主性を大切にする"方針が柔軟な発想を生み、"責任は自分が取るから心配するな"という姿勢が社員にも伝わり、新たなチャレンジを後押ししているのだなと感じました。
おわりに・・・
たいへん面白かったのが、同社の社員が倉庫内をスケートボードで移動しながら仕事をしていたことです。「他社では見られない光景ですね」と言った私たちに宮沢社長は「これ使うと早いんだよ」といってご自分も乗って見せてくれました。
宮沢社長は、今でもサーフィンやスノーボードを趣味としており、時には社員のみなさんと一緒に海や雪山に行くそうです。そんな遊び心を忘れない魅力的な方が経営者だからこそ、ユーザーの心を捉える新しい商品を生み出し続けることができるのだろうと感じました。
アドバンスマーケティング㈱の更なる発展をお祈り申し上げます!
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