ドライバーのフトコロにやさしいタイヤ販売店
かつてはステータスシンボルとも言われた自動車ですが、近年は景気の低迷や若者の車に対する意識の変化から、都市部を中心に車両保有台数が減少しているそうです。とはいえ、茨城県において自動車は生活必需品であり、複数の車両を所有している家庭も珍しくありません。 しかし、自動車オーナーにとって頭の痛い(フトコロが痛い)問題が定期的にくる消耗品の交換です。特にタイヤは4本購入するとなると数万円という多額の出費になるため、「同じ品質なら出来るだけ安いものを」というのが正直なところではないでしょうか。
今回ご紹介する株式会社テラヤマは、乗用車だけでなくあらゆる用途(特に注目は農機具用のもの)のタイヤを豊富に取り揃え(在庫量は3万~4万本!)、他社を圧倒する低価格で知られるタイヤ専門の販売店です。同社は、目立った宣伝広告などを行っているわけではありませんが、口コミで顧客を広げ、県内各地にリピーター客を獲得しています。
寺山社長のご実家は、もともとは木工所で、農耕用のリヤカーの製作を行いながら近隣の農家を相手に農機具の販売を行っていたそうです。タイヤの取扱いはリヤカー用のタイヤを仕入れていたことが始まりだそうですが、徐々に自転車やバイク用のものを取り扱うようになり、一般家庭にも自動車が普及しはじめた昭和40年代には、自動車のタイヤが主力商品となりました。その後、昭和50年代には、主要なタイヤメーカーの商品をすべて取り扱うようになり、昭和58年、同社は先代である寺山社長の父によって新規に設立されました。
独自の仕入ルートを確立し、リーズナブルな価格設定を実現
ところで、みなさんはどのような店舗でタイヤを購入していますか。一般の方は、カーディーラーや全国展開する大手カー用品店、ガソリンスタンド、または自動車修理工場などに相談される方も多いかもしれません。中でもカー用品店は、立地条件の良い幹線道路に多くみられ、ドライバーにとってはワンストップで欲しい商品が揃うため、利用している方は多のではないでしょうか。
「一方、同社の店舗は大きな幹線道路沿いや、人通りの多い街中にあるわけではありません。交通量は多いものの周囲はのどかな田園地帯であり、ほとんど家屋はありません。立地条件でいえば、むしろ商売には不向きな場所といってもよいほどです。そうした中、同社が安定した業績を確保し続けている最大の理由は、何といっても価格面の優位性にあります。
通常、タイヤ販売店は各メーカーで系列化されている企業が多く、そうした企業が経営する店舗では、毎年まとまった量の商品をメーカーから同様の卸値で仕入れているため、どの店舗もさほど価格に差は出ません。 しかし、同社の場合、かなり以前から農機具に付随する商品としてタイヤの取扱いをスタートさせていたことから、一般的なメーカー経由の仕入ルートではなく全国各地のタイヤ販売店が保有している在庫の中から仕入れる形態をとってきました。そのため、特定のメーカーの系列化に組み込まれることもなく、現在まで独自のルートで仕入れをすることができるため、リーズナブルな価格で販売することができるのです。
ただし、こうした業務形態には課題もあります。それは、仕入先が様々なサイズの在庫を保有しているとは限らないため、商品のサイズ・種類が偏ってしまう懸念があるという点です。しかし、こうした課題も、同社は全国各地にさまざまな仕入先を確保することで克服し、どのサイズのタイヤであっても、いずれかのメーカーの商品は必ず用意できる態勢を整えています。
トラクターから芝刈り機用まで、タイヤなら何でも揃う豊富な品揃え
また、同社では自動車用のタイヤのみならず、トラクター用の大型の商品から芝刈り機用の小さなものまで常時用意されています。「売れる商品ばかりじゃない」と寺山社長は笑いますが、一般のユーザーだけでなく農家や様々な業者からの問い合わせも多く、タイヤならどんなものでも置いてある、ということで大変重宝されているようです。
「農作業中にバーストした場合、仕入れまで1週間かかるなんていったら農家は仕事になりません。めったに売れない商品でもそういうお客様の声に応えるために、在庫は欠かすことができません。」
商品仕入の難しさ
私たち一般のユーザーにはあまりピンと来ないかもしれませんが、実はタイヤにもその年によってトレンドがあるそうです。寺山社長によれば、このトレンドを読むことがもっとも難しい点であり、この商売における"肝"といってもよいかもしれません。
「タイヤサイズの需要にはその年によってかなり偏りが見られます。そのため、その年の需要をどれだけ正確に予測できるかがとても重要です。たとえば、最近はハイブリッドカーが人気でトヨタのプリウスの販売が大きく伸びました。そこで、今年の冬はプリウスに適したサイズのタイヤの需要が伸びるかと言えば、そうではないのです。その年に売れた車種に合わせればよいというような単純な話ではありません。」
売上がピークとなるのは、11~1月にかけてで、まさにスタッドレスタイヤの需要期と重なります。しかし、実際の冬用タイヤの仕入れは、例年夏の間に完了させてしまいます。そのため、もし予測が大きく外れた場合、売れない大量の在庫を抱える一方で、代金の支払いだけが先行することになってしまいます。資金繰りが大きく狂ってしまう上、一年の失敗が業績に与える影響は小さくありません。 タイヤ販売業界では、過去のデータを分析して、需要予測に生かしている企業も多いそうですが、なかなか計画通りというわけにはいかないようです。同社では、これまでの経験をもとに、寺山社長をはじめ社員で話し合い、何をどれだけ仕入れるかを決定しています。商品知識と長年の経験に裏付けられた勘が必要とされるため、一朝一夕に真似できるものではないようです。
作業効率と安全性の両立
顧客の中には、近隣の地域からだけでなく、なかには安いという評判を聞きつけて土浦市や大子町などかなり遠方から来る方もいるそうです。特に、スタッドレスタイヤへの交換時期などハイシーズンには、長い列ができてしまい、作業までに長時間待たせてしまうこともあります。そのため、「どれだけ作業効率を上げるか」という点が、売上、収益の面でとても重要になってきます。 もちろん、一つの作業ブースに4人を投入し、各スタッフがタイヤ1本を担当すれば作業効率を上げることはできるかもしれません。しかし、複数のスタッフで対応すると他のスタッフを当てにする気持ちが生まれ、かえってミスが発生しやすくなる上、責任の所在が曖昧になる可能性があります。従って、同社は、1ブースに入るのは原則1人もしくは2人までと決めているのだそうです。
言うまでもなくタイヤは自動車の重要な部品の一つであり、安全性を担保する取付作業の精度を無視するわけにはいきません。また、大切な車を預かる以上、仕上がりの美しさにも気を使います。作業には効率性と安全性の両立、そして顧客の意見に耳を傾ける誠実さが求められます。 同社の評判は、価格の安さ、商品の豊富さだけでなく、安全性や顧客に対する丁寧な対応など地道な努力を積み重ねることによって確立されたもの、と言うことができます。
おわりに・・・
最近は、どんな販売店でもインターネット上の口コミ情報の良し悪しが、その店の集客に大きく影響するようです。今回ご紹介した㈱テラヤマも、顧客の口コミ、評判に支えられ成長してきた企業ですが、それは今現在ネット上に溢れている出どころの分からない情報とは違い、実際に購入した顧客から新たな顧客へと伝えられた確かな情報でした。
ご紹介したように、同社の強みは価格の安さと他社にない品揃えの豊富さです。しかし、それと同時に顧客一人ひとりを大切にする姿勢がなければ同社の今の姿はなかったかもしれません。口コミという顧客の生の声を味方につけて成長してきた同社の姿は、商売の基本は人と人のつながりであることをあらためて感じさせてくれました。
株式会社テラヤマのますますの発展をご祈念申し上げます!
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