中古車販売を専業として手掛ける事業者には、中小企業が多く、平成14年からの推移をみると、2人以下の規模の業者と、20人以上の規模の事業者の数に増加がみられます。また、大規模な販売業者の中には、大型の展示場を設けたり、ネットでの販売、フランチャイズ方式による多店舗展開を通じて業容を拡大させ株式上場している中古車ディーラーもあり、業界内での規模の格差が顕著に現れています。
今回ご紹介する㈱ナオイオートは、昭和52年、 「いいものを大切に 真心込めて出来るだけ安く 車を通じて生涯のお付き合い」という経営理念のもと、代表取締役である直井清正社長によって設立されました。現在では、約2,000台という県内でも有数の在庫量と低価格かつ高品質な中古車を提供する企業として広く知られており、資本金額や従業員数から判断すれば中小企業に分類されますが、売上規模でみれば大規模な中古車販売業者であると言えます。近年は特に、軽自動車、しかもいわゆる新古車を中心とした販売に力を入れており、総販売台数に占める割合は8割に上ります。 また、車検(「車検のコバック」)、整備(「ふれあい板金塗装館」)そしてリサイクルカー用品の販売(「アップガレージ」)なども手掛けるトータルカーディーラーとしても注目を集めており、平成21年12月期の売上実績は84億円、従業員数は250名を超えるまでに成長しました。
環境の変化に即応できる経営の柔軟性
ここ数年、自動車業界では、エコカー減税や補助金など、政策によるテコ入れで販売が伸びたことを除けば、新車登録台数は減少を続けており、年々市場規模の縮小がみられます。また、中古車販売業界においても、2009年の普通・小型車の販売台数が前年比6.2%減少するなど同様の傾向がみられ、やはり厳しい状況が続いています。
こうした中においても、㈱ナオイオートでは各部門とも売上を着実に伸ばしており、今期は中古車販売部門10,000台、車検25,000台、整備25,000台といった計画をクリアしつつあり、平成22年12月期の売上は100億円を突破することが見込まれています。今や地域に根差した企業として盤石な事業基盤を築き上げている同社ですが、ここに至るまでには様々な苦労がありました。多角化を図ってきた理由について、直井社長は次のように話していました。
「創業から約20年間、弊社は中古車販売専門に行う企業でしたが、バブル崩壊後、販売台数が落ち込み、平成9年には売上が対前年比で10億円も減少する危機に見舞われました。そうした状況を打開する策として選んだのが、車検や整備、板金塗装などサービス面の拡充でした。」
販売にはじまり自動車に関連するあらゆるニーズに応える体制を整えた現在の同社の姿は、外部環境の変化に対応し、危機を乗り越えてきた結果であるということができます。また、先にご説明したような、総販売台数に対して軽自動車の割合が約8割を占め、しかもそのほとんどが新古車という商品構成も、購入単価の低下や維持費用がかからない車両への需要の高まりに応じたものです。
「ここ数年、景気の低迷が続き、車に対する支出額も大きく減りました。そうした変化に合わせ、5年ほど前に商品構成を見直し、軽自動車の販売に力を入れてきました。また、新古車の取扱数が多いのは『よい商品をより安く手に入れたい』というお客様のニーズに応えた結果といえます。かつてバブルの頃には、高級車を専門的に取扱う店舗を設けたこともあり、弊社では社会情勢の変化に応じて戦略の見直しを行っています。」
このように同社の最大の強みは、外部環境に即応することができる経営の柔軟性にあると言えそうです。
SMIプログラムを活用した人材育成
しかしながら、企業のある部門が今現在直面している課題を把握したとしても、組織内にそうした情報を経営者に引き上げ、全社的な共通認識として浸透させるチャンネルがなければこうした柔軟性は生まれません。時に大企業病のひとつにも挙げられるように、組織が大きくなればなるほど経営者の目は届きにくくなり、経営の舵取りは重くなりがちです。この点に関して、同社の直井正樹常務は次のように述べていました。
「おそらく、多くの企業では経営者も従業員も『自分の会社を良くしたい、より良い職場にしたい』という同じ願いを持っているのではないでしょうか。ところが、経営者の意向が従業員に伝わっておらず、また、従業員の意見や現場の問題点が経営者に伝わっていないために、実際の行動がバラバラということはよくあります。弊社もかつてはそのような企業のひとつでした。そうした状況を改善するために設置したのが、『勇夢塾(いさむじゅく)』という勉強会です。」
この勇夢塾とは、ポール・J・マイヤーが提唱したSMIプログラム(※)を基調としています。社内に自ら考え目標を設定し、その目標を達成するためのアイデアを提言することができる人材を養成するためのものです。この勇夢塾は毎週金曜日に3時間開催され、1年間継続します。現在、9,10,11,12期生の4グループ、計30名が塾生として参加しており、そこでは参加者それぞれが自分の人生を改めて見つめなおし、夢や目標が話し合われるほか、社内の問題点や改善策、そして様々な企画が議題に上り、得られた情報は社長をはじめとする役員に報告されます。
※SMI (Success Motivation Institute)はポール・J・マイヤーによって1960年にテキサス州ウェイコ市にて創立されました。以来、マイヤーが著した人生で成功をおさめるための実践的なプログラムは世界の人々に用いられており、日本で成功者と呼ばれる人たちのあいだで非常に多く採用されている自己啓発プログラムです。
そうした議論の中から生まれ、実現した企画のひとつが、 『サンキュッパ』という店舗です。これは、軽自動車の購入であれば予算を諸費用込みで50万円程度と考えている顧客が多いことに着目し、車両本体価格が39万8千円前後の商品を中心に販売している店舗につけられる名称です。その分かりやすさ、親しみやすさが顧客を引き付けるのでしょう、評判は上々のようです。 直井常務は「安いですが全車6万キロ以内の厳選車なので、品質にも自信があります。もちろん点検整備をした上で、1年間の保証を付けてお渡しします!」と胸を張ります。
意識改革によって社員一人ひとりの能力を最大限に引き出す
また、この勇夢塾の効果として見逃せないのが、社員の意識改革です。企業経営において社員一人ひとりのやる気、能力をいかに引き出すか、どのようにしてインセンティブを与えるかという点はとても大きな問題です。勇夢塾では、それぞれの塾生が目標を設定し、計画を立て段階的にその目標を達成していくことを学んでいきます。では、何のための目標設定なのでしょう。直井常務とともに勇夢塾を卒業した高橋和正経営企画部長にお応えいただきました。
「弊社では、全ての社員に幸せな人生を送って欲しいと考えています。プライベートと仕事は別だという意見もありますが、人生のうち会社にいる時間が多くを占めていることを考えると、社員が充実した人生を送るためには、ナオイオートという会社にいる時間が充実していなければなりません。つまり、社員が幸せな人生を送るためには、企業が元気でなければならず、そのためには社員一人ひとりが目標を持って日々の仕事に取り組むことが必要なのです。こう考えると、会社の目標と、社員個人の目標は重ね合わせることができるのです。」
勇夢塾によって、社員の中に「意見を提案すれば受け止めてもらえる、自分も会社経営に参加している」という意識が芽生え、言われたことを受動的に行うのではなく、一人ひとりが自ら考えて行動するなど、徐々に変化が現れているようです。同社では、こうした経営に対する当事者意識と、経営者と従業員間の共通認識を醸成することで、組織の活性化を図ることに成功しています。
CSR活動 ~地域に必要とされる企業を目指して~
同社は、地域貢献、CSR活動にも積極的に取り組んでいます。その一つが、 『ナオイの森 ECOプロジェクト』というキャンペーン企画です。これは、エンジンオイルの交換をリッターあたり100円とし、得られた売上を全て植林のために募金するというものです。工賃は無料で行っており、もちろん、この企画に関しては採算など考えておりません。前回、2010年2月には、茨城県緑化推進機構を通じて約90万円を募金しました。これは、同社の「地域社会に必要とされる企業を目指す」という目標を実現するための取り組みのひとつと言うことができます。
おわりに・・・
以上、ご紹介したように㈱ナオイオートは、「いいものを大切に 真心込めて出来るだけ安く」という理念を追求し、時には大胆な変革も厭わない柔軟な経営姿勢と、目標達成に向けて社員の意思統一を図ることで顧客の支持を獲得してきました。
直井社長は「お客様と社員を幸せにすることができる、地域に必要とされる企業にしたい」と語っていましたが、その取り組みに終わりはないのかも知れません。なぜなら同社は、全てのお客様との「生涯のお付き合い」を目指しているのですから・・・。 株式会社ナオイオートのますますの発展をお祈り申し上げます!
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