分析関連機器の製造分野において、日本は、アメリカ、ヨーロッパとともに三極構造の一翼を担う地位を占めています。
※分析機器は、ラボ用、環境用、プロセス用、保安用、医療用、自動化関連機器、 情報処理システム、バイオ関連、食品関連などに区分されます。
今回訪問した日本テクノサービス株式会社は、真空凍結乾燥機の設計製造、分析関連機器・バイオ関連機器・各種研究用機器の製造販売、DNA・RNA合成試薬の輸入販売及びDNA・RNAの受託合成を手掛け、業績は順調に推移しています。 東日本大震災では自社ビルの一部が壊れた他、DNA・RNA合成で使用するDNA合成機等が、実験台から落下し事業再開に向け大変な思いをされたとのことでした。現在は復旧され、通常営業を行っています。 今回、牛久市の本社ビルを訪ね、同社の正木崇社長にお話を伺いました。
※DNA:デオキシリボース(五炭糖)とリン酸、塩基から構成される核酸です。塩基は、アデニン(A)、グアニン
(G)、シトシン(C)、チミン(T)の四種類あります。高分子生体物質で地球上のほぼ全ての生物におい
て、遺伝情報を担う物質となっています。
RNA:DNAと同じ核酸ですが、塩基の一つがチミン(T)でなくウラシル(U)で、生体内での役割がDNA
とは異なります。
創業の背景・・・
正木社長は山形県のご出身で、北海道大学を卒業後、室蘭市内の造船所に就職し、艤装工作などを担当しました。しかし、1973年(昭和48年)のオイルショック当時の造船不況により、10年ほどで造船会社を退社しました。 さて、会社は辞めたが、どうやって家族を養っていったらいいのか、正木社長はとても悩みました。1983年(昭和58年)、正木社長が36歳の時に注目したのが真空凍結乾燥機です。 当時の真空凍結乾燥機は外国製が主流で、乾燥機の製造ノウハウを持たない正木社長は機械を分解し、造船所の工作室で培った技術やノウハウを活かして、とにかく見よう見まねで製造を始めたそうです。
※真空凍結乾燥は、熱(風)乾燥をすると分解変質変色等が起きてしまうものに適しています。特
に食品等では、熱(風)乾燥をすると風味が大きく損なわれてしまうので、真空凍結乾燥が適し
ています。真空凍結乾燥の工程は、次のとおりです。 1.予備凍結 試料(乾燥物)のあらかじめ凍結を行います。 2.コールドトラップ冷却 凍結された試料から水分だけを取り去る。除去される試料(乾燥物)
の水分は、氷(固体)から直接水蒸気(気体)となり、乾燥室からコ
ールドトラップへ氷の状態で集められる。 3.真空排気 真空ポンプにより室内の気体を排気し真空状態にすることで、凍結さ
れた試料(乾燥物)から水分(氷)が蒸発できる条件を作る。 4.棚加熱 棚を加熱して、この蒸発潜熱を供給し続ける(氷1㎏が蒸発して水蒸
気となるためには約675kcalの蒸発熱が必要)。 5.融氷 コールドトラップに試料(乾燥物)から蒸発した水分が氷となって付
いてきますので、氷を溶かします。
開業当初、東京の浅草に借りていた事務所兼作業場が夜8時以降になると閉まってしまうため、真空凍結乾燥機の部品を自宅に持ち帰って夜中に組立等を行っていました。そのような状態が1年間も続き、「この期間は、かなりきつかった。」と正木社長は昔を振り返りながら話してくださいました。製品第1号となる卓上型真空凍結乾燥機は、当時1台120万円で販売を開始しましたが、発売当初の売れ行きは芳しくなかったため、日々機械の改良を重ねる苦労の連続でした。正木社長は、一家の大黒柱として何とか生計を立てて、家族を守らなければならないという思いで毎日必死だったそうです。
1991年(平成3年)、日本電子株式会社(東証1部)の子会社である株式会社日本電子輸入販売と分析装置等の輸入品の受入検査及びメンテナンス契約を結び、同年6月に日本テクノサービス株式会社を設立しました。 その直後に遺伝子分野でバイオブームが沸き起こり、当社はDNA合成試薬をいち早くアメリカから輸入し、研究所や製薬会社などに販売を開始しました。それが功を奏して、その後の業績は順調に推移していったとのことです。 しかし、大手企業も当然にこの事業に参入してくることが見込まれたため、当社としても新たな事業展開を考えなければ・・・という危機感を強く持ったそうです。 そこで、1994年(平成6年)、アメリカのグレンリサーチ社と日本国内販売契約を結び、代理店となりました。さらに、一式2000万円もするDNA合成機を購入し、社内でDNA受託合成サービス部門を立ち上げ、自社で輸入した試薬を使用するDNA受託合成事業に新規参入しました。その結果、DNA合成試薬の輸入販売に付加価値をつけることに成功しました。
※グレンリサーチ社(アメリカ):DNA研究の先端革新を支える高品質の試薬製品を供給するため設立された会社。
当社の理念
バイオ、DNA、理化学機器製造の3事業を柱として設立後、つくば地域及び札幌を拠点に、生産・営業活動を行っています。2007年(平成19年)、本社をつくば市から現在の牛久市に移転しました。 もともと当社は、真空凍結乾燥機の製造販売が主体の企業でした。1991年に法人化しましたが、その後はDNA試薬の輸入販売、さらにDNA合成へと事業を拡大しています。 正木社長の座右の銘は、『満堂和気生嘉祥』です。つまりは、『皆で力を合わせ工夫し仕事に励めば、企業は自ずと繁栄する』をモットーに少数精鋭にて研究支援事業を展開しています。 「自分は、ワンマンではない。自分は、サラリーマン時代から技術者の一人であり、全ての分野に長けているわけでもない。よって、各分野に長けた人を見つけることによって、その人が柱になって事業を展開してもらう。従って、当社の経営は、トップダウン方式ではない。」ということを常に話されています。 当社では、皆で意見を出し合って企業の筋道をつけていくことにしています。
当社が取り扱うDNA・RNA合成分野は、バイオ事業としてメジャーとなっており、最近では遺伝子研究のために、海外大手企業も数多く参入しています。毎日午後5時までに受注したDNA・RNA合成は、翌日までに完成、発送しなければなりません。3交代にしたりエアー便を使って対応したりしている会社もありますが、当社では、そこと競合しないような技術力、経験を必要とする単価の高い商品に特化しています。 DNA試薬合成における当社の強みは、グレンリサーチ社の代理店になっていることの強みを生かし、多種類の試薬を使用し、自社で製造したDNA・RNA合成機で製造することです。当社の受注先には、製薬会社、学校、研究機関等が多く、複雑な難しい要求を受託し、良質で付加価値の高い合成品に特化しています。 当社の基本スタンスは、誰も行っていない、若しくは誰も
行わないニッチな分野でのものづくりを行うことです。
当社の新たな取り組み
先述のとおり、当社はバイオ、DNA、理科学機器製造の3事業を柱としていますが、現在、遺伝子分析を完全連続自動化する装置(右の写真参照)の販売に力を入れています。この装置の特徴は、幅・奥行が60㎝という世界最小級であり、しかも、PCRベースの遺伝子解析システムの完全連続自動化する点において日本発・世界初であるということです。
遺伝子分析は、人手に頼っているのが現状ですが、これを完全連続自動化することで、人件費や外注費等の経費削減の他、人を媒介してウイルス等の混入を防止することが可能となります。 当社では、この装置を東京ビッグサイト開催される「国際バイオEXPO(6月29日~7月1日)」に出展します。 また、前記ロボットの他、インド製ピペットの出展も予定しています。ピペットは現在アジアの様々な国で生産されるようになっていますが、その中でも品質の高いインド製品を取り扱っています。 常に新しいものを市場に出して行こうと考えている正木社長の意気込みを感じました。
※ピペット:比較的少量の液体を一定容積吸い取って計量する化学実験器具の総称。
「当社は、先に述べた3分野を主軸としておりますが、いずれにも共通することは、卓越した技術力を保持し、お客様のご要望に応じた独自の製品製作ができることです。きめ細かな心配りで、複雑なものでも、お客様のニーズにあった対応ができるのが当社の特徴です。真空凍結乾燥機でいえば、設計からすべて行うことで高い需要を確保し、どこにも頼らないオリジナル製品づくりの姿勢が、当社の強みとなっています。」と、正木社長はおっしゃっています。
おわりに・・・
「当社のような中小企業では、社長を含め、従業員が何でもこなさなければならない。しかしながら、当然に限界はあります。そんな時に、力を貸してくれる金融機関には大変感謝しています」とおっしゃっています。 今回の東日本大震災では、正木社長は、同じ東北人ということで、自分が力を貸す番だと被災された方の就職先として、アパート、調度品を全て会社持ちで被災地からの人材募集に積極的に取り組まれています。 また、スタッフ全員も日々研鑚を積みながらお客様のニーズを的確につかめるよう努めています。それに応えるために正木社長も、大手企業や他社との住み分けを掲げ、新しい市場を開拓するとともに、現在の事業においても他社が手を出しずらいニ
ッチな分野での活躍を、常に描き続けることで、相乗効果が生まれています。 今後の日本テクノサービス株式会社の発展を心よりお祈りいたします。
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