女性の社会進出、共働き世帯の増加、高齢化や晩婚化・非婚化による単身世帯の増加などに伴い、日本人の食生活は大きく変化しています。
下ごしらえが要らず、すぐに調理ができるカット野菜の便利さが多くのユーザーに受け入れられ、カット野菜の需要は伸び続けています。
平成23年7月20日、常総市で業務用カット野菜の加工・販売を営む株式会社坂東商会を訪問し、飯村誠治代表取締役社長にお話を伺いました。
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カット野菜工場 |
5層自動洗浄装置 |
飯村社長が家業を継ぐきっかけ
昭和54年(1979年)、飯村五郎氏(飯村社長の実父、現会長)が有限会社坂東開発を設立、青果物卸売業を創業しました。
昭和59年(1983年)、株式会社に組織変更し、昭和62年(1987年)にカット野菜事業を始めました。
飯村社長は、学校卒業後、卸売市場勤務を経て、昭和59年(1983年)当社に就職しました。
家業を継いだ当時のことについて、飯村社長は次のようにおっしゃっています。
「自分は長男なんで、子どもの頃から『家業を継がなければ……。』という思いが何となく頭の中にありました。高校を出てから卸売市場で修業をして、21歳のとき当社に入りました。
ところが、28歳のとき親父が倒れ、それから実質的に自分が当社を経営するようになりました。その当時、当社は赤字で、借金も増えていて、大変な状況でした。
自分は、いつも悩んだらリセットして、やり直すようにしています。まずは売上を増やすため、当社の現状を取引先に説明して、取引先と価格交渉をしました。それでも、ほとんどの場合、自分の思った金額まで価格を上げてもらえませんでした。
それから、スポットの仕事を増やそうと営業していたところ、高い価格で仕事をくれる業者がいて、本当に助かりました。そうして赤字は少しずつ縮小していきました。
自分が本当にラッキーだったと思うのは、1つ目は若い時から会社を経営できたこと、2つ目はバブルの後、取引先(の年齢層)が変わっていったことです。若い頃は取引先の相手は年上ばかりだったけれども、バブル後は相手が自分と同じくらいの年齢か、自分よりも若い人になっていたので、何でも気軽に話し合いができ、仕事がスムーズに進みました。」
飯村社長の苦悩と下した決断
40歳を過ぎたころ、飯村社長はカット野菜事業を継続するか転業するかでとても悩んだそうです。
「多くの人に支えられて10数年経った頃、ふと気が付いたら40歳になっていました。その頃、『自分がやっていることは、野菜というモノを買って、ベルトコンベアーのようにモノを流しているだけじゃないか……?うちが仕事を辞めても同業他社はたくさんあって、果たして世の中で必要とされているんだろうか……?』と悩みました。
また、『食に関する仕事で何か違うことができないだろうか……?』ということで、飲食店フランチャイズ(FC)の説明会に参加したこともありました。
そんなとき、ある取引先から、『今やっているカット野菜をもっときちんとやったら?』とアドバイスを受けました。親父(飯村五郎会長)に相談すると、「お前が好きなようにやったらいいんじゃないか。」という返事でした。
飲食店FCに転業するか、カット野菜事業を継続するか悩みました。ただ、飲食店FCの説明は金儲けの話ばかりで、自分のやりたいこととは何か違うんじゃないかと……。」
そして、飯村社長が下した決断は、手狭で老朽化した工場を移転し、カット野菜事業を拡大することでした。
「移転前の工場は狭くて、必要の都度設備を増やしてきたので使い勝手が悪く、建物もだいぶ古くなっていました。地元の不動産業者や市役所に行って移転先の土地を探し、地元金融機関や保証協会も支援してくれて、平成19年にようやく新工場が稼働しました。」
安心・安全・新鮮で美味しい当社のカット野菜
当社の取扱商品は葉物が多く、厳格な生産管理と品質管理により、お客様との信頼関係を築き上げてきました。そのことは、次の質問に対する飯村社長の回答からも十分に伝わってきます。
--御社でカット加工する野菜は何が多いですか?
「取り扱いが多いのはグリーンリーフです。グリーンリーフは天候災害や害虫等のリスクが大きいので、同業他社が少ないです。
美味しい野菜とは、鮮度が一番です。収穫され工場へ持ち込まれた野菜は、当日処理され当日出荷されております。」
--野菜は地元産が多いのですか?
「産地は北海道から沖縄までです。当社が農家の生産管理を委託する株式会社ヒロベジ(関連会社)では、地元の契約農家だけではなく、全国にある契約農家の生産指導を行っています。このような産地直送システムにより、収穫から納品までの時間短縮を実現しています。信頼のネットワークが全国につながっているため、安心で安全な鮮度の良い野菜を1年中安定供給することが可能です。
契約農家から仕入できないものは、大田市場にある株式会社丸五青果(関連会社)から仕入れています。」
--御社の業務用カット野菜は、どんなところで使われていますか?
「当社の工場はセブンイレブンの指定工場になっています。セブンイレブンの焼き立てパンや餃子に入っているキャベツ・ピーマン・ニラ、ゴーヤチャンプルのゴーヤは、当社の野菜です。
その他、株式会社虎昭産業茨城工場(守谷市)のサンドイッチ、デイリーヤマザキのデイリーホット(注)、山崎製パン子会社のヴィ・ド・フランス、スーパーの惣菜の天ぷら、デパ地下、デルタ航空の機内食などで使われています。」
(注) デイリーホットとは、デイリーヤマザキ(コンビニ)店舗内で焼き立てパン・弁当・サンドイッチ・惣菜を作る店内調理システム。
農業への挑戦と飯村社長の夢
平成22年9月、飯村社長は農業法人株式会社アグリード(常総市)を設立し、ハングリー精神旺盛な30代半ばのK氏とともに農業を始めました。K氏が農家と工場で研修を受け、準備万端これから農業を始めようとした矢先、3月11日に東日本大震災が起こりました。野菜を作っても風評被害の問題があるため、飯村社長は今年の作付を見合わせるか悩みましたが、K氏と相談して作付することにしました。
「将来は、採れたて野菜を生かした、地産地消の百姓レストランをやってみたいと思っています。儲けようとは思いません。TX沿線の守谷とつくばあたりに2店舗出せればいいかな。」と、飯村社長は夢を語られています。
おわりに
当社は、「無限の可能性にチャレンジして人生を楽しく生きる」を企業理念に掲げています。飯村社長は、約20年前から会社経営に携わり、その後数々の苦難を乗り越え、工場移転を実現しました。農業への挑戦や百姓レストランの夢を熱く語っているとき、飯村社長の輝いている表情がとても印象的でした。
株式会社坂東商会のますますのご発展をご祈念申し上げます。
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