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株式会社 真空デバイス

オリジナルの真空装置を武器にニッチな市場を攻める

吉田社長

株式会社真空デバイス

 

代表取締役    吉 田 壽 治

所 在 地

茨城県水戸市飯島町1285-5

事業内容

電子顕微鏡試料作製装置の開発製造

創     業

昭和60年10月

 

顕微鏡の思い出

 

“世の中には知らない方がいいこともある”
 私がこの言葉を実感したのは小学生の時でした…なんて言うと「いきなり暗い話か?元気企業のコーナーじゃないのか?」なんて声が聞こえてきそうですが、これは私が小学校の理科の時間に顕微鏡を使ったときの感想なんです。
 みなさんもミジンコなどを見た経験があると思うのですが、私の小学校でも理科の時間に顕微鏡を使う授業がありました。いろいろなものを見てみましたが、その中にシイタケが入っていたんです。肉眼では見ることの出来なかった菌糸や胞子などがはっきりと見えて、非常に面白く楽しい授業だったのですが、「あんなものを食べてたのか…恐ろしい。」、ということでそれ以降しばらくの間はキノコを食べることができなくなってしまいました。
 その時に使用した顕微鏡は正式には光学顕微鏡という種類もので、試料(実験に用いるサンプルのこと。上記の理科の実験で言うと、シイタケにあたる。)に光を当てて拡大するのに対し、より微小な物質を見る際に使われる電子顕微鏡では、電子銃というピストルのようなものから電子を照射し、像を結ばせて観察します。光に比べて電子の波長は非常に短いため、光学顕微鏡では見ることのできない小さな構造を鮮明に観察することができるのです。

 

 

知ってました?電子顕微鏡は見るものに前処理をしないと見ることができないんです。

 

 

平成20年に完成した新工場 しかし、電子顕微鏡は光学顕微鏡のように手軽に見ることはできません。なぜかと言うと、まず、電子は空気中では自由に動くことができないため、顕微鏡装置内は真空に保つ必要があります。また、試料は水分を含んだ状態での観察ができないため、形状を変形させずに乾燥させたり、試料が帯電するとはっきりと像が見えないため、帯電防止用に金や白金などを薄くコーティングさせたりする必要があります。つまり、試料の目的や種類に応じて真空装置内での様々な前処理が必要となるのです。そして、この試料の前処理を行う装置(電子顕微鏡試料作製装置)をはじめとする様々な真空装置を製作しているのが、今月ご紹介する株式会社真空デバイスです。

 

 ㈱真空デバイスは水戸市飯島町に事務所を置き、電子顕微鏡の試料作製装置をはじめ各種の真空装置を製作しています。同社の吉田社長は、大手電気機器メーカーを退社後、数社の勤務を経て、昭和60年に同社を立ち上げました。
「設立当初は真空装置の開発・設計のみを行っていました。しかし、開発した装置を実証する必要があり、徐々に製造までを手掛けるようになってきました。」
 数年前までは、同じ真空機器でも半導体等の製造産業向けの装置も多く生産してきましたが、現在は電子顕微鏡の周辺機器に特化しているとのことです。

 

 

知財を活用し、オリジナル製品を製造

 

オスミウムコーターを利用して撮影したスギ花粉の撮影例

 

 簡単に真空といっても、真空状態、特に高真空状態をつくり、それを維持させるためには、最新の物理化学現象の活用と高精度の工作技術、気体透過性や放出性のない材料等と、それらを組み合わせるエンジニアリング力が要求されます。同社では、数十種類にも及ぶ特許を取得しており、知財経営にもしっかりと取り組んでいます。

 


「弊社がご提供している"オスミウムコーター"という試料に帯電防止処理を施す装置は、金などの代わりにオスミウムという物質を帯電防止剤として使用し、低電圧放電CVD(特許第3517122)という独自の技術を使用しています。これにより、どのような複雑な形状の試料にも極めて薄いコーティングで十分な導電性を得ることができ、しかも超高倍率での観察も可能となるなど様々な優れた点があります。」

 

 

自社独自の技術でニッチな市場を攻める

 

 

カーボンコーターオスミウムコーター 同社の製品の中心は電子顕微鏡の周辺機器ということもあり、取引先は大学や企業の研究所に限られています。

「言うまでもありませんが、弊社の製品は広く一般の人が使用するものではありません。また、一度購入したお客様は何年も同じものを使い続けますし、一つの製品のライフサイクルがとても長く、ある製品は20年以上も基本的な仕様が変わっていないものもあります。市場としては小さく、弊社と同様の製品をつくっている会社も全国でも数社しかありません。」

 こうした市場の特徴から、大手企業が参入してくる可能性は低く過剰な競争になるリスクは小さいようです。 ニッチな市場を独自の技術で攻める、まさに中小企業の経営戦略の王道といえるでしょう。

 

 吉田社長によれば、同社はこの業界では後発企業とのことです。では、現在のように安定したシェアを獲得できた理由はどのような点にあるのでしょうか。技術力以外にも何か理由がありそうです。

 

「弊社では製品の設計から部品の削り出しや組み立てなどの製造までを一貫して行っています。そのため、製品は顧客である研究者からの細かな要望を聞き、使いやすいように製品を改造することができます。また、使用方法の丁寧な説明や故障の際のアフターメンテナンスなどにも迅速に対応しています。」

 

 同社は様々な種類の試料作製装置を製作しており、いわゆる多品種少量生産型の企業です。ユーザー側の視点に立った製品づくりときめ細かなサービスが次の受注につながっていると言いえるでしょう。また、外注への依存度が低いことから、他社と比較して低価格で製品が提供できる点も強みと言えそうです。


「製品ごとに仕様が違いすぎて、だいぶ以前に納入した製品の修理を依頼された時などは、『これどうやって造ったんだっけ?』なんてこともありますけど…(笑)」

 

 

おわりに…

 

 

工場内部工作機械を保有し、部品から製造している 吉田社長は「宇宙ステーションが出来て、真空での作業が手軽にできるような時代が来たらうちの仕事がなくなっちゃうんだよね。」と冗談を飛ばしますが、今後も真空応用技術は、ナノテクノロジーをはじめとした新素材、バイオや原子力などあらゆる先端技術の発展に不可欠な要素として需要が見込まれており、これからも発展が期待できそうです。

 なお、同社は今年(平成20年)7月に新工場を立ち上げました。竣工したばかり工場内には、吉田社長の気さくな性格を反映してか、真空装置の製造という難しい業務内容にもかかわらず、どことなく自由で穏やかな空気が流れていたことがとても印象的でした。

 

 

 

 

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