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有限会社 筑波ハム

“本物の味”にこだわる熟練の技が生み出した地域ブランド

 

 つくばエクスプレスが開通し、イーアスつくばがオープン、にわかに賑やかになった研究学園駅から車で走ること数分。同社が経営するコテージ風のおしゃれなレストランは、静かな緑の林の中にありました。平日だというのに店内はお客さんでほぼ満席の状態。昼時を過ぎても入れ替わり立ち替わり客足は途絶えません。貴重なお時間をいただき、創業者である中野会長にお話を伺いました。

 

 

養豚農家のハムづくりへの挑戦

 

店舗兼レストラン

「筑波ハム」といえば、県内外に多くのファンを有しており、贈答品などに最適な高級ハムとしてそのブランド名が浸透しています。中野会長は、「苦労だなんて思ったことはない」と言いますが、ここに至るまでの道のりは決して平たんなものではありませんでした。

 

 実は、中野会長はかつて県南でも有数の養豚農家であったという、他の経営者には無い経歴をお持ちです。昭和40年頃は1,000頭以上の豚を飼育していたというからその規模は半端じゃありません。
しかし、豚肉の価格の低迷や都市化が進む地域で農業を継続していくことの困難さを感じ始めていた中野会長は、徐々に養豚業を続けていくことに対する危機感をつのらせていきました。

 

 そんな折、後にハム製造を始めるきっかけとなる転機が訪れます。中野会長は豚の飼育に関する情報を得るために研究機関に通っていたのですが、そこで研究員の先生方が手作りしたハムやヨーグルトの味に出合います。"本物"の美味しさに感動を覚えた中野会長は事業化を思い立ち、ハムづくりへの挑戦が始まったのでした。
 製造方法についてのノウハウは、研究所の先生方に指導を依頼したそうですが、まさに試行錯誤の連続。養豚農家がハムづくりを始める、当時この無謀とも思える計画に賛成した人は誰もいなかったそうです。

 

 

素材づくりと加工方法への強いこだわりが支える高い品質

 

 

 同社の商品の品質を支えているのは、熟練の職人による丁寧すぎるまでの加工方法と、何より素材となる豚の飼育方法へのこだわりです。素材となる豚肉は、茨城県の銘柄豚として名高いローズポークが使用されています。しかも、ただのローズポークではなく、同社の専属の農場において、通常よりも大麦を多く配合した抗生物質の添加されていない飼料で育てられた、健全で安全性の高い豚です。

 

伝統的な製法へのこだわりが生む本物の味「うちには企業秘密なんてものはありません。丹精込めて生産者が育て上げた良質な豚肉を、手間ひまを惜しまず、昔ながらの製法でゆっくりと時間をかけて加工しているだけです。」

 

 中野会長の素材に対する強いこだわりは、養豚業を営んでいた時代から追い求めていた「美味しくて安全な豚肉を作るためにはどうしたらよいか」という命題に対する結論から生まれています。そして、「一切手抜きはしない」という製造工程におけるこだわりは、過去に僅かばかりの効率を優先させたことで、品質を低下させてしまった苦い経験から得た「合理化は味を落とす」という考えから生まれています。最高の素材と最高の加工技術が両立され、初めて「筑波ハム」の品質が維持されているのです

 

 もちろん以上のような過程を経て製造される商品には、相応の時間とコストがかかり、それは販売価格に反映せざるを得ません。その点に関して中野会長は次のように述べています。

 

「よくうちの商品は高いと言われます。スーパーなどで販売されているハムと比較すると、約3倍の価格ですから、それだけみれば確かに高い。しかし、安全で品質の良い農産物を生産する農家と、それを加工する業者が経営を続けるためには、やむを得ない価格設定なのです。そのことを、消費者であるお客様にもある程度ご理解いただきたいのです。私は"安いもの"をつくろうとは思っていません。ただ、お客様の『美味しい』という言葉が聞きたくて"良いもの"をつくろうと努力しているのです。」

 

 しかし、中野会長ご自身が、採算がとれず一時はやめて養豚に専念しようかとも思った、と語っている通り、こうした信念を経営という厳しい世界で実践していくのは、並大抵の努力ではなし得ないことだと思います。その情熱を支えてきたのは、生産者が食品をつくる上で引き受けなければならない責任に対する自負と、何よりも「筑波ハム」に対するファンの声援であったようです。

 

 

ブランドイメージの重要性

 

 

 「筑波ハム」という名称は、その品質の高さを想起させる確固としたブランドイメージとして定着しつつあります。もちろんそのイメージは、何もせずに得られたものではなく、ブランドを重視する経営者の思想と、品質をまもろうとする長年の努力の積み重ねによりつくりあげられたものです。中野会長のブランドに対する考えは、その重要性を認識させられた、次のようなエピソードから生まれています。

 

「『筑波ハム』という名前が今のようにお客様に認知されるようになる前、弊社の商品は、ある高級ホテルとお取引させていただいていたことから、そのホテルの名前を冠して、『〇〇ホテルハム』といった名前でも販売していました。ある物産展に出展した時の話ですが、その『〇〇ホテルハム』と『筑波ハム』が並べて販売されていました。2つの商品の中身は同じなのですが、立ち寄ったお客様が『筑波ハムより〇〇ホテルハムの方が旨いね。筑波ハムはまだまだだね』とおっしゃったんです。ブランドイメージというものは、中身が同じであるにもかかわらず味まで変えてしまうのだ、悔しさとともに何とかして早く『筑波ハム』というブランドを確立しなければならないと痛感しました。」

 

 ハードだけではダメ、同時にソフトも充実させる必要があるとの認識のもと努力を続け、最近やっと「あそこの商品は美味しい」という認識を持っていただている、これからもそのブランドイメージをより強固なものとする不断の努力を続ける必要があると中野会長は気を引き締めます。

 

 

 

地域ブランド『つくば豚』の誕生!  ~農商工連携へのチャレンジ~

 

 

 さて、以上のようにこれまでに確立したものを守り通すだけではなく、同社は新商品の開発や新たな取組みにも余念がありません。そのひとつは、農商工連携事業への取り組みにより生まれた「つくば豚」という新品種の豚の開発です。


「つくば豚」を抱く中野会長(左)と萩島氏(右) このプロジェクトは、中野会長のある疑問から生まれたものです。その疑問とは、同じ生産者が育成した豚でありながら、肉質や味に違いが出てしまうのは何故なのか、その発生要因はどこにあるのか、というものです。
その要因をつきとめるべく、中野社長は研究機関の協力を仰ぎサンプルとして提供した豚肉の成分分析を行いました。その結果、豚肉の旨みのもととなる赤肉の中に含まれる脂肪の量が個体によってバラつきがあり、それには遺伝子の情報が関与しているということ、その解決策として、高い筋肉中脂肪量を持つ豚のみを選定し、交配を行うことで安定的に味の良い豚肉を生産することができるということが分かったのです。


 しかしながら、新品種の豚を開発し、その豚肉を安定的に供給してもらうためには信頼できる養豚業者の協力が必要不可欠です。そこで、土浦市の畜産農家である萩島一成氏の協力を得て、新品種の開発への取り組みにより生まれたのが「つくば豚」という新品種の豚です。現在、4頭の母豚が出産しており、来春には商品化できる見込みとのことです。中野会長は今後、「つくば豚」を地元の養豚業者に飼育してもらい、新たな地域ブランドにしたいと話していました。


 こうした、同社の提携農家や小売業者とのネットワーク、豚肉の加工に関するノウハウなどの経営資源と、畜産業者である萩島氏の養豚や豚の交配に関するノウハウを結びつけ事業化しようとする取り組みは、農商工連携促進法に基づく認定を受けています。

 

 

おわりに…

 

 

 研究所の先生、農家・取引先・商工会の方など中野会長のお話には、「筑波ハム」、「つくば豚」が誕生するまでに関わったたくさんの人々のお名前が登場します。ご紹介した農商工連携への取り組みが象徴しているように、「筑波ハム」は地域のさまざまな人々が繋がって初めて生まれたブランドであるということが分かりました。

 

「最良の味を求めて下さるお客様がいる限り、本物を追い求め続け、より喜ばれる商品づくりに精進しいていきたい」

 

ドリンクヨーグルト「ナチュラル吉野」 中野会長はこのように述べ、本物の味をつくり続けていくことこそが、支えてくれた方々に報いるただ一つの方法だとして決意を新たにしていました。なお、今回ご紹介した「つくば豚」以外にも、次の地域ブランドの構想があるそうです。今後も有限会社筑波ハムからは目が離せません。同社のますますの発展をお祈り申し上げます!

 

 

 あ、最後になりますが、同社のドリンクヨーグルトも本当におススメです。やみつきになること必至、ぜひ一度ご賞味ください!

 




 


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